L-Triangle!7-2
- 2014/10/02
- 20:20
3の世界が混乱の真っただ中にあるのと、ほぼ同時期。森の中を、一人の少年が突き進んでいた。周囲に人の気配はなく、繁みの陰から今にも何かが襲いかかってきそうだというのに、少年の歩調には一切の迷いが見られない。
「キリヤ~、そろそろ休まない~?」
少年の周囲を飛んでいた翼竜が、息を切らせながら懇願する。だが、少年……キリヤは、翼竜に視線を向けることすらせずに答えた。
「さっき休憩したばかりだろうが。俺はまだ進む。休みたければ勝手にしろ」
「ったく、相変わらず手厳しいんだから……」
翼竜が、呆れたように愚痴をこぼす。この竜の名はガエネといい、キリヤの旅の連れである。この少年のバイタリティに、彼女はいつも驚かされていた。一見すると、少女に見えるほど可愛らしい外見をしているにも関わらず、その忍耐強さと負けん気は計り知れない。もっとも、そのギャップが、たまらなく魅力的であるのだが。
ガエネを無視して先を急いでいたキリヤが、ふいに立ち止まった。何事かとガエネが様子をうかがっていると、悲鳴とともに、一人の少女がこちらに向かって落下してくる。
「何だあれは……人間!?」
とっさに跳躍し、落ちてきた少女をキリヤは受け止めた。そして、そのまま地面に難なく着地する。
「よっ……っと」
「あ、ありがとうございますぅ!!」
少女が、礼を言う。まばゆい光が取り巻いているかのような美しさを持つ彼女に、ガエネの目つきが険悪なものになる。一方、女性に対してとりわけクールなキリヤは、彼女の人間離れした愛らしさに動じることはなかった。彼の視線が、美少女の背に集中する。そこには、白い翼が生えていた。
「……天使……?」
「えへ、失敗しちゃいましたぁ」
美少女が、へら、と緊張感のない笑顔を向けてくる。そのしまりのない様も、美しさが伴えば大層魅力的である。キリヤに抱えられたままの彼女に嫉妬し、ガエネが二人の間に割って入った。
「ちょっと……いつまでキリヤにしがみついてるのよ!離れなさい!」
「あ、ごめんなさいですぅ!」
我に返り、美少女は地に降り立つ。そこへ、羽音が近づいてきた。
「まったく……。空も思うように飛べないとはな」
上空で翼をはためかせつつ、黒い髪の青年がキリヤ達を見下す。その口調には、明らかな侮蔑が感じられた。
「あ、ミカエル様ぁ」
美少女が、間の抜けた声を出す。
「ん?同族がいたのか……って!」
彼女につられて青年に視線を向けたキリヤは、目を見張った。青年の顔には、見覚えがある。彼の神聖さを感じさせるほど整った容姿は、一度見たら忘れられるものではない。
「あんた、確か……フォース!?」
「あら、ホントだ。あの街で会ったイケメンさん」
驚愕するキリヤに、ガエネが同意する。かつて立ち寄った辺境の街ナンナルで、彼らは不思議な体験をした。その事件に、この美貌の青年も関わっていたのだが……。
「……兄さんの知り合いか……」
ミカエル、と呼ばれた黒髪の青年が、意外そうに呟く。フォースというのは、兄である3のこの世界における別名だったと、彼は記憶していた。
「にいさん?ってことは、フォースの弟か。何でこんなところにいるんだ?」
キリヤが、怪訝な顔で問う。されど、相手の反応は、そっけないものだった。
「それに答える義理はない。だが、兄さんの知り合いだというのなら……その女、お前に預けよう」
「え、ええ?」
「勝手に預けられても、それはそれで困るんだが……」
唐突な提案に、美少女が驚きの声を上げ、キリヤは困惑する。こちらの都合などお構いなしに、黒髪の青年……3ミカは、話を続けた。
「兄さんが溜まり場にしている屋敷に放り込もうと思っていたが……まあいい、手間が省けた。せいぜい頑張って、その女をやつらに押しつけることだな」
「ちょっと待て、それならナンナルまで行けばいいじゃないか!何でここに置いていくんだ!」
「そうよそうよ!私たちだって、あんたらにつき合っていられるほど暇じゃないのよ!?」
あまりに身勝手な3ミカに、キリヤとガエネが抗議する。だが、そんなことで思いとどまるほど、相手はこちらを尊重していなかった。
「好き勝手にほざいていろ。では、さらばだ、愚かなる者たちよ」
そう言い捨てて、3ミカは、翼を大きく広げて飛び去って行った。
「待て!!
あわてて声をかけるものの、その程度で止まる相手ではない。3ミカの姿が完全に消えたのを確認し、キリヤは肩を落した。
「何なの、あれ!?むっかつく~!!」
ガエネが、悔しそうに唸り声を上げる。同じ顔でも、友好的で穏やかな兄とはえらい違いだと彼女は思った。イケメンは好きだが、性格が悪すぎるのは論外である。
「あ……あのあの」
「ん?」
美少女に服の裾を引っ張られ、キリヤは彼女の方へ目を移す。おずおずと、美少女は口を開いた。
「ミカエル様は、きっと照れ屋さんなんですぅ。あんまり怒らないであげてくださいね」
「は?何言ってんの、あんた」
「ずいぶんとおめでたい思考だな……」
的外れな擁護をする美少女に、ガエネだけでなく、キリヤも呆れた顔をする。そんな彼らの白け具合に気づかず、美少女はにっこりと微笑んだ。
「あ、そうだ、自己紹介がまだでしたぁ。下級天使の、レミエルですぅ。レミって、読んで下さいね☆」
うれしそうに、少し恥ずかしそうに、美少女……レミエルは名乗る。
「あんたはあんたで、そのしゃべり方がムカつくわ」
レミエルに対するガエネの反応は、容赦ない。天然だか養殖だかわからないが、目の前の美少女は彼女が最も嫌いなぶりっこタイプだ。
「俺は、キリヤ。こっちは、ガエネだ」
「キリヤ君と、ガエネちゃんですかぁ~よろしくですぅ~!」
淡々と、キリヤは名を教えた。顔をほころばせて、レミエルが一礼する。互いの名前はわかったものの、何も解決していないことにキリヤは気づいていた。
「それで……これから、どうするんだ?連れの男は、帰ってしまったぞ」
「えっとぉ……」
キリヤの問いに、レミエルはしばし考えた後、
「どうすればいいのかわかりません!」
照れたように、笑ってごまかした。硬直するキリヤとガエネをよそに、レミエルは事情を説明し始める。
「んっとぉ、レミはぁ、ミカエル様に、この世界ならるっぴぃと幸せになれるって言われて、連れてこられたんですけどぉ」
口元に手を添えて、頭の悪い話し方をするレミエル。ガエネがキレそうになっているのをとりあえず無視して、キリヤは気になる単語を指摘した。
「るっぴぃ?」
「レミの、王子様ですぅ!優しくて、とってもかっこいいの☆」
答えて、レミエルは頬を桃色に染めてくねくねと身をよじる。
「いや、そんなことは聞いてなくてだな……」
「ちなみに、ミカエル様の双子のお兄ちゃんですぅ」
レミエルの空気を読まないのろけに早くもげんなりし始めていたキリヤだったが、彼女が唐突に打ち明けた事実に耳を疑った。
「るっぴぃって、フォースのことか!?」
「一字も共通点がないじゃないの!あんたバカじゃない!?」
キリヤの驚愕の声に続き、ガエネも怒りに任せて吠える。対するレミエルは、きょとんとした顔で首をかしげた。
「あれ?るっぴぃ、フォースっていうお名前だったんですか?」
「……ちょっと、自信がなくなってきたが……」
「双子の兄なんだからフォースさんでいいと思うわ……たぶん」
レミエルに尋ねられ、キリヤとガエネは顔を見合わせる。ここまでで得られた情報は、レミエルがこことは別の世界から3ミカに連れられてきたことと、彼女が3の知り合いであるということだ。キリヤは、そこまで冷静に分析できた自分を褒めてやりたい気すらしていた。
とりあえず、場を仕切り直して更なる情報を得ようとキリヤは己を奮い立たせる。
「レミエル、君は、フォースとはどういう関係だ?」
「え、えっとぉ……るっぴぃは、レミの王子様でぇ……」
「彼氏?」
「……えへ」
ガエネの横やりにはにかんだ笑みを漏らす、レミエル。それが肯定であることは、二人にも伝わった。
「うわぁ……フォースさん、こーいうのが趣味なんだ……」
顔を引きつらせて、ガエネがドン引きする。顔も性格も申し分がない3の致命的な欠点を、まざまざと見せつけられたような気がした。やはり自分にはキリヤしかいないのだ、と痛感する。
「お願いですぅ!レミを……レミを、王子様のところに連れて行ってください!」
「そうしてやりたいのはやまやまだが……ここからナンナルまで、だいぶ距離があるからなあ……」
泣きそうな顔でレミエルにすがりつかれ、キリヤは困ったように頬を掻く。彼がナンナルに立ち寄ったのは、もう数か月も前のことだ。
「あ、大丈夫ですぅ!私、飛べます!」
翼をはためかせ、レミエルはふわりと浮き上がる。3ミカ同様、その羽根は飾りではないらしい。
「そうか?じゃあ……」
キリヤは、地図を広げた。ナンナルと、現在の大体の位置を記し、レミエルに手渡す。
「これを見ながら飛べば、ナンナルに行けるだろう。方角はあっちだ」
「あ、ありがとうございましたぁ!このご恩は忘れません!!」
地図を受け取り、レミエルは飛び立とうとする。しばしの間、その場で翼を懸命に動かしていた彼女だったが、やがて力尽き……墜落した。
「おい、大丈夫か!?」
へろへろと座り込んでしまったレミエルに、キリヤはあわてて駆け寄る。
「はうぅ~……レミ、実は飛ぶのがあまり上手じゃありませんでしたぁ……」
立ち上がれないまま、レミエルはぜいぜいと肩で息をする。空を飛ぶのは、思ったよりも体力がいるのかもしれない。
「この世界にはどうやって来たんだ?」
「ミカエル様に引っ張ってもらってきましたぁ。それで、着いた途端にぽいって」
キリヤの疑問に答え、レミエルが自分の首を指さす。そこには革製の首輪がはめられており、よく見ると、途中で切れたリードらしきものがぶら下がっていた。
「つくづく、最っ低の野郎ね」
レミエルに対する嫌悪感を一瞬忘れて、ガエネがジト目になる。美少女をリードつきの首輪で連れ回すのは、たとえ美青年であっても完全にアウトだ。
「飛んでいくのも無理、か……」
「……何か、嫌な予感がするわ」
キリヤが、顔をしかめる。ガエネも、彼が何を予感しているのかうすうすわかっていた。
「え?あれ?レミ、もしかしてミカエル様に置いていかれちゃった……?」
不穏な空気を感じとり、レミエルがおろおろと辺りを見回す。今更そんなことをしても、3ミカの羽根の一本すらも、その場に残されてはいない。
「置いていかれた、というか……」
「捨てられたわね」
「……はうぅ、どうしましょう~!!」
はっきりと断定され、レミエルは青ざめた。そうしているうちに不安が全身に回ったのか、しくしくと泣き始める。
「……キリヤ、これ、どうするの?」
「……どうしよう……」
キリヤとガエネの頼りない視線が、交錯する。いきなりとんでもないお荷物を押しつけられ、彼らは、完全に途方に暮れていた。
「キリヤ~、そろそろ休まない~?」
少年の周囲を飛んでいた翼竜が、息を切らせながら懇願する。だが、少年……キリヤは、翼竜に視線を向けることすらせずに答えた。
「さっき休憩したばかりだろうが。俺はまだ進む。休みたければ勝手にしろ」
「ったく、相変わらず手厳しいんだから……」
翼竜が、呆れたように愚痴をこぼす。この竜の名はガエネといい、キリヤの旅の連れである。この少年のバイタリティに、彼女はいつも驚かされていた。一見すると、少女に見えるほど可愛らしい外見をしているにも関わらず、その忍耐強さと負けん気は計り知れない。もっとも、そのギャップが、たまらなく魅力的であるのだが。
ガエネを無視して先を急いでいたキリヤが、ふいに立ち止まった。何事かとガエネが様子をうかがっていると、悲鳴とともに、一人の少女がこちらに向かって落下してくる。
「何だあれは……人間!?」
とっさに跳躍し、落ちてきた少女をキリヤは受け止めた。そして、そのまま地面に難なく着地する。
「よっ……っと」
「あ、ありがとうございますぅ!!」
少女が、礼を言う。まばゆい光が取り巻いているかのような美しさを持つ彼女に、ガエネの目つきが険悪なものになる。一方、女性に対してとりわけクールなキリヤは、彼女の人間離れした愛らしさに動じることはなかった。彼の視線が、美少女の背に集中する。そこには、白い翼が生えていた。
「……天使……?」
「えへ、失敗しちゃいましたぁ」
美少女が、へら、と緊張感のない笑顔を向けてくる。そのしまりのない様も、美しさが伴えば大層魅力的である。キリヤに抱えられたままの彼女に嫉妬し、ガエネが二人の間に割って入った。
「ちょっと……いつまでキリヤにしがみついてるのよ!離れなさい!」
「あ、ごめんなさいですぅ!」
我に返り、美少女は地に降り立つ。そこへ、羽音が近づいてきた。
「まったく……。空も思うように飛べないとはな」
上空で翼をはためかせつつ、黒い髪の青年がキリヤ達を見下す。その口調には、明らかな侮蔑が感じられた。
「あ、ミカエル様ぁ」
美少女が、間の抜けた声を出す。
「ん?同族がいたのか……って!」
彼女につられて青年に視線を向けたキリヤは、目を見張った。青年の顔には、見覚えがある。彼の神聖さを感じさせるほど整った容姿は、一度見たら忘れられるものではない。
「あんた、確か……フォース!?」
「あら、ホントだ。あの街で会ったイケメンさん」
驚愕するキリヤに、ガエネが同意する。かつて立ち寄った辺境の街ナンナルで、彼らは不思議な体験をした。その事件に、この美貌の青年も関わっていたのだが……。
「……兄さんの知り合いか……」
ミカエル、と呼ばれた黒髪の青年が、意外そうに呟く。フォースというのは、兄である3のこの世界における別名だったと、彼は記憶していた。
「にいさん?ってことは、フォースの弟か。何でこんなところにいるんだ?」
キリヤが、怪訝な顔で問う。されど、相手の反応は、そっけないものだった。
「それに答える義理はない。だが、兄さんの知り合いだというのなら……その女、お前に預けよう」
「え、ええ?」
「勝手に預けられても、それはそれで困るんだが……」
唐突な提案に、美少女が驚きの声を上げ、キリヤは困惑する。こちらの都合などお構いなしに、黒髪の青年……3ミカは、話を続けた。
「兄さんが溜まり場にしている屋敷に放り込もうと思っていたが……まあいい、手間が省けた。せいぜい頑張って、その女をやつらに押しつけることだな」
「ちょっと待て、それならナンナルまで行けばいいじゃないか!何でここに置いていくんだ!」
「そうよそうよ!私たちだって、あんたらにつき合っていられるほど暇じゃないのよ!?」
あまりに身勝手な3ミカに、キリヤとガエネが抗議する。だが、そんなことで思いとどまるほど、相手はこちらを尊重していなかった。
「好き勝手にほざいていろ。では、さらばだ、愚かなる者たちよ」
そう言い捨てて、3ミカは、翼を大きく広げて飛び去って行った。
「待て!!
あわてて声をかけるものの、その程度で止まる相手ではない。3ミカの姿が完全に消えたのを確認し、キリヤは肩を落した。
「何なの、あれ!?むっかつく~!!」
ガエネが、悔しそうに唸り声を上げる。同じ顔でも、友好的で穏やかな兄とはえらい違いだと彼女は思った。イケメンは好きだが、性格が悪すぎるのは論外である。
「あ……あのあの」
「ん?」
美少女に服の裾を引っ張られ、キリヤは彼女の方へ目を移す。おずおずと、美少女は口を開いた。
「ミカエル様は、きっと照れ屋さんなんですぅ。あんまり怒らないであげてくださいね」
「は?何言ってんの、あんた」
「ずいぶんとおめでたい思考だな……」
的外れな擁護をする美少女に、ガエネだけでなく、キリヤも呆れた顔をする。そんな彼らの白け具合に気づかず、美少女はにっこりと微笑んだ。
「あ、そうだ、自己紹介がまだでしたぁ。下級天使の、レミエルですぅ。レミって、読んで下さいね☆」
うれしそうに、少し恥ずかしそうに、美少女……レミエルは名乗る。
「あんたはあんたで、そのしゃべり方がムカつくわ」
レミエルに対するガエネの反応は、容赦ない。天然だか養殖だかわからないが、目の前の美少女は彼女が最も嫌いなぶりっこタイプだ。
「俺は、キリヤ。こっちは、ガエネだ」
「キリヤ君と、ガエネちゃんですかぁ~よろしくですぅ~!」
淡々と、キリヤは名を教えた。顔をほころばせて、レミエルが一礼する。互いの名前はわかったものの、何も解決していないことにキリヤは気づいていた。
「それで……これから、どうするんだ?連れの男は、帰ってしまったぞ」
「えっとぉ……」
キリヤの問いに、レミエルはしばし考えた後、
「どうすればいいのかわかりません!」
照れたように、笑ってごまかした。硬直するキリヤとガエネをよそに、レミエルは事情を説明し始める。
「んっとぉ、レミはぁ、ミカエル様に、この世界ならるっぴぃと幸せになれるって言われて、連れてこられたんですけどぉ」
口元に手を添えて、頭の悪い話し方をするレミエル。ガエネがキレそうになっているのをとりあえず無視して、キリヤは気になる単語を指摘した。
「るっぴぃ?」
「レミの、王子様ですぅ!優しくて、とってもかっこいいの☆」
答えて、レミエルは頬を桃色に染めてくねくねと身をよじる。
「いや、そんなことは聞いてなくてだな……」
「ちなみに、ミカエル様の双子のお兄ちゃんですぅ」
レミエルの空気を読まないのろけに早くもげんなりし始めていたキリヤだったが、彼女が唐突に打ち明けた事実に耳を疑った。
「るっぴぃって、フォースのことか!?」
「一字も共通点がないじゃないの!あんたバカじゃない!?」
キリヤの驚愕の声に続き、ガエネも怒りに任せて吠える。対するレミエルは、きょとんとした顔で首をかしげた。
「あれ?るっぴぃ、フォースっていうお名前だったんですか?」
「……ちょっと、自信がなくなってきたが……」
「双子の兄なんだからフォースさんでいいと思うわ……たぶん」
レミエルに尋ねられ、キリヤとガエネは顔を見合わせる。ここまでで得られた情報は、レミエルがこことは別の世界から3ミカに連れられてきたことと、彼女が3の知り合いであるということだ。キリヤは、そこまで冷静に分析できた自分を褒めてやりたい気すらしていた。
とりあえず、場を仕切り直して更なる情報を得ようとキリヤは己を奮い立たせる。
「レミエル、君は、フォースとはどういう関係だ?」
「え、えっとぉ……るっぴぃは、レミの王子様でぇ……」
「彼氏?」
「……えへ」
ガエネの横やりにはにかんだ笑みを漏らす、レミエル。それが肯定であることは、二人にも伝わった。
「うわぁ……フォースさん、こーいうのが趣味なんだ……」
顔を引きつらせて、ガエネがドン引きする。顔も性格も申し分がない3の致命的な欠点を、まざまざと見せつけられたような気がした。やはり自分にはキリヤしかいないのだ、と痛感する。
「お願いですぅ!レミを……レミを、王子様のところに連れて行ってください!」
「そうしてやりたいのはやまやまだが……ここからナンナルまで、だいぶ距離があるからなあ……」
泣きそうな顔でレミエルにすがりつかれ、キリヤは困ったように頬を掻く。彼がナンナルに立ち寄ったのは、もう数か月も前のことだ。
「あ、大丈夫ですぅ!私、飛べます!」
翼をはためかせ、レミエルはふわりと浮き上がる。3ミカ同様、その羽根は飾りではないらしい。
「そうか?じゃあ……」
キリヤは、地図を広げた。ナンナルと、現在の大体の位置を記し、レミエルに手渡す。
「これを見ながら飛べば、ナンナルに行けるだろう。方角はあっちだ」
「あ、ありがとうございましたぁ!このご恩は忘れません!!」
地図を受け取り、レミエルは飛び立とうとする。しばしの間、その場で翼を懸命に動かしていた彼女だったが、やがて力尽き……墜落した。
「おい、大丈夫か!?」
へろへろと座り込んでしまったレミエルに、キリヤはあわてて駆け寄る。
「はうぅ~……レミ、実は飛ぶのがあまり上手じゃありませんでしたぁ……」
立ち上がれないまま、レミエルはぜいぜいと肩で息をする。空を飛ぶのは、思ったよりも体力がいるのかもしれない。
「この世界にはどうやって来たんだ?」
「ミカエル様に引っ張ってもらってきましたぁ。それで、着いた途端にぽいって」
キリヤの疑問に答え、レミエルが自分の首を指さす。そこには革製の首輪がはめられており、よく見ると、途中で切れたリードらしきものがぶら下がっていた。
「つくづく、最っ低の野郎ね」
レミエルに対する嫌悪感を一瞬忘れて、ガエネがジト目になる。美少女をリードつきの首輪で連れ回すのは、たとえ美青年であっても完全にアウトだ。
「飛んでいくのも無理、か……」
「……何か、嫌な予感がするわ」
キリヤが、顔をしかめる。ガエネも、彼が何を予感しているのかうすうすわかっていた。
「え?あれ?レミ、もしかしてミカエル様に置いていかれちゃった……?」
不穏な空気を感じとり、レミエルがおろおろと辺りを見回す。今更そんなことをしても、3ミカの羽根の一本すらも、その場に残されてはいない。
「置いていかれた、というか……」
「捨てられたわね」
「……はうぅ、どうしましょう~!!」
はっきりと断定され、レミエルは青ざめた。そうしているうちに不安が全身に回ったのか、しくしくと泣き始める。
「……キリヤ、これ、どうするの?」
「……どうしよう……」
キリヤとガエネの頼りない視線が、交錯する。いきなりとんでもないお荷物を押しつけられ、彼らは、完全に途方に暮れていた。
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- テーマ:自作小説(ファンタジー)
- ジャンル:小説・文学
- カテゴリ:L-Triangle!7
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