L-Triangle!9-2
- 2014/12/18
- 20:14
明り取りの小さな窓があるだけの、暗く殺風景な一室。それが、監獄の取調室だ。3は、そこでもう何度目かの尋問を受けていた。机を挟んだ向こう側では、ぎょろぎょろとした目が印象的な捜査官が、彼の顔を油断なく見据えている。
「今度こそ、吐いてもらうぞ!なぜケレン様を殺した!」
捜査官が、3に詰め寄る。ケレンは、教会の中でもかなり高い地位にいたらしく、捜査官も彼女を敬称で呼んでいた。
「だから、私はやっていないんですってば!」
捜査官に対し、3は同じ答えを繰り返す。いかなる尋問を受けようとも、身に覚えのないことを認めるわけにはいかないのだ。困り切ったように、捜査官は腕組みをした。
「動機がわからないことには、減刑のしようがない。このままでは、お前は神の名のもとに処刑されることになるな」
「そんなことを言われても、やってないものはやってないんだからしょうがないです」
あからさまな脅しに対し、3は毅然とした態度で応じた。それが癪に触ったのか、捜査官は机を激しく叩く。
「貴様、ちょっと顔がいいからって調子に乗るな!!」
「いや、調子になんて乗ってないですよ!?」
いちゃもんをつけられて、3は即座に言い返す。だが、彼の声は捜査官の耳には届いていないようだ。噛みつかんばかりの勢いで、捜査官は再度机に拳を叩きつけた。
「うるさい、名家の貴婦人の方々から減刑嘆願書が山のように届いておるというのに、彼女たちの好意を無にするつもりか!」
そう言うなり、捜査官は3の目の前に書類の束を乱暴に置く。そこに連なる署名に、3は心当たりがあった。メイルードで調査をしている間に仲良くなった女性たちの顔が、次々と浮かんでくる。
「ああ……ありがとう、キャシー、サンディ、ミリナ、シンシア……ええと、後は」
「何人たぶらかしとるんだ貴様は!!」
感激し、一人一人の名を呟く3に、捜査官がつっこみを入れる。そこへ、ドアが開いて門番の男が顔を出した。
「囚人に面会だ」
仏頂面のままで、そっけなく告げてくる。門番を押しのけて部屋に入ってきたのは、3にとって非常に馴染みのある二人だった。
「よー、頑張ってるかー?」
2が、冷やかすように声をかけてくる。
「カイン、シーザー!来てくれたんだね!」
孤立無援での奮闘に疲れきっていた3は、うれしさのあまり、二人の元へ駆け寄った。そのまま抱きつこうとする彼を、1と2はさりげなくかわす。そんな彼らのやり取りを見て、捜査官は渋面になった。
「部外者は、立ち入り禁止のはずだが?」
苛立ちとともに、門番を咎める。不本意であることを隠さずに、門番は弁解した。
「仕方がないだろう。こいつら、ロード様の紹介状を持っている」
「何だと……!?」
捜査官が、仰天して部外者二人をじろじろと見つめる。彼の視線をきれいに無視して、ルシファー達は話し始めた。
「とりあえず、大丈夫みてえだな。一体、何があった?」
先ほどまで捜査官が座っていた椅子に腰かけ、2は問いかける。
「聞いてよ!私は無実だって言うのに、誰も信じてくれないんだ!酷いよね!酷すぎるよね!?」
興奮した様子で3は捜査官を指さし、涙ながらに訴えた。味方が増えたことで気が大きくなったのと、今までの不安が蓄積されたのとで、とても冷静とは言えない心理状態である。
「とにかく、最初から話せ」
1が、3の両肩を叩いて落ち着かせる。一度大きく深呼吸した後、3は話し始めた。
「うん。ええと……昨日の昼ごろ、私はこの街で仲良くなった女の子に家に呼ばれて、遊びに行ったんだ」
「……ここでもナンパしてんのかよ」
2が、半眼になる。悪びれもせずに、3は肩をすくめた。
「ナンナルでは色々とやりにくいけど、ここなら都会だし、羽目を外してもいいかなーなんて」
「うん、まあ、続けろ」
2の目つきが、険悪さを帯びる。淀み始めた空気をごまかすように、1は続きを促した。
「それでね、家のドアを開けた途端、彼女……ケレンが倒れて来てね。その時には、すでに彼女は殺されていたんだ。で、どうしようかとおろおろしてたら、通報されて騎士団の皆さんに取り囲まれちゃってさ」
「それは……運が悪かったのか、それとも仕組まれたのか、どっちだろうな?」
2が、首をかしげる。彼は、3が陰謀に巻き込まれて濡れ衣を着せられたのではないかと思い始めていた。そうなると、事件を解決するのはかなり大変なことになる。
「彼女の家は教会の寮の一室で、人があちこちにいたから、何とも言えないんだけどね」
ケレンが殺された当時の状況を思い出し、3は断定を避ける。自分が濡れ衣を着せられたのは、たまたまかもしれないし、彼に恨みを持つ者の犯行かもしれない。真犯人の動機を考察する判断材料が、圧倒的に足りなかった。
「…………よし」
話を聞いて、何かを思いついたように1が頷く。ドアの方へすたすたと歩いて行く彼を、3は呼び止めた。
「どうしたの?シーザー」
「ここで考えてても時間の無駄だからな。俺様が手っ取り早くぱぱーっと、解決してやるよ」
1が、不敵に笑う。その顔は、自信に満ちていた。
「ホント!?」
「まさか、真犯人の目星がついたのか?」
3が顔を輝かせる中、2は話についていけずに困惑する。先ほどの3の証言のどこに事件解決の糸口があったのか、彼には皆目見当がつかなかった。
「そんなのどうでもいいんだよ。俺様にかかれば、一発釈放だ」
不安そうな2に対し、1は片手をひらひらと振ってみせる。そしてそのまま、1は何もできずに立ち尽くしている捜査官に話しかけた。
「おい、そこの」
「な、何でしょうか?」
唐突に声をかけられ、捜査官が姿勢を正す。うさんくさい相手だが、勇者ロードの紹介状を持っている人物を、彼もまた無碍にできる地位にはいなかった。捜査官の複雑な心境など歯牙にもかけず、1は用件を言う。
「その、殺された女が埋葬されている墓地の場所を教えろ」
「は、はあ!?」
「それとも、まだ解剖中か?とにかく、女の死体の在りかを話せ」
予想外のことを尋ねられ、捜査官は戸惑う。構わず、1は問いを重ねた。その脅し半分の剣幕に圧倒されて、捜査官は後ずさる。
「あー、なるほど、そういうことか」
1の意図を理解し、2が手を打つ。時間を操作する能力を持つ1は、死者を生き返らせることもできるのだ。被害者が生き返れば、3の無実は証明される。いや、罪自体がそもそもなかったことになる。どんな難解なトリックも、彼の前では意味を成さない。
「ケレン様は、今朝、第九墓地に埋葬されましたが……」
「よし。じゃ、行ってくるぜ」
しどろもどろになりながらも、捜査官はようやく答えた。目的の情報を得て、1は3に一言残して部屋を出て行く。2も、それに続いた。
「頼んだよ、シーザー、カイン」
二人の背中に、3は信頼を託す。やはり持つべきものは友だちだと、彼は心の底から実感していた。
第九墓地は、監獄からそう遠くない場所にあった。監獄ほどではないが、こちらも高い柵に囲まれている。盗掘防止のためだろうか、数人の騎士たちが、見回りをしていた。
「……ここか」
地図と墓地の門を見比べて、1は確信とともに呟く。落ち着きなく辺りをうろうろしていた2が、ようやく追い付いてきた。
「何か、騒々しくねえ?」
そう言うなり、柵の隙間から墓地の中を覗こうとする。彼の不審な挙動を咎め、見張りの騎士が何人か駆け寄ってきた。
「お前たち、ここで何をしている!」
剣の柄に手をかけながら、こちらにあからさまな敵意を向けてくる。何でどいつもこいつも偉そうなんだとうんざりしながら、1は答えた。
「何って、墓参りだよ」
「ここは、しばらくの間立ち入り禁止だ。後日、また来るんだな」
1の常識的な返事に、騎士は殺気を引っ込めたものの、今度は侮蔑とともに彼らを追い払うような仕草をする。そのあまりにぞんざいな態度は、1ですらも怒りを通り越して呆れるような代物だった。
「そういうわけにもいかねえんだっつの。ほれ」
真面目に相手をするのもばからしいと、1はロードの紹介状を騎士たちに見せる。
「俺ら、こいつの知り合いなんだけど?」
紹介状を見て硬直する騎士たちに、だめ押しをするように1は告げた。その途端、先ほどの門番や捜査官と同様、騎士たちは魔法にでもかかったかのように威勢の良さが消し飛んだ。
「……少々お待ちください」
そう言い残し、騎士たちはばたばたと駆け去って行く。その変わり身の早さを鼻先で笑い飛ばし、1と2は彼らの背中を見送った。元の世界では、悪魔たちを束ねる地獄の王として権力を振りかざす立場にいる二人だが、こうやって他人の権力をかさに立ち回るのも新鮮で面白いと思い始めていた。自分の世界の悪魔たちには、ちょっと見せられない姿である。
しばし後、騎士は一人の人物を連れて戻ってきた。
「君たち、こんなところでどうしたの?」
「ロード!」
2が、彼の名を呼ぶ。白い軍服に身を包んだ、爽やかな雰囲気の青年……彼こそが、勇者ロードだった。
「あー……お前自身には用はねえ。俺様に必要なのは、お前の権力だけだ」
「ちょっとそれ、あんまりじゃないか!?」
本人を前にして、1はぶっきらぼうに言い放つ。酷い仕打ちに、勇者は悲しそうな顔をした。
「女が殺されたって事件、お前も知ってるだろ?俺らのダチが、無実の罪で拘束されてんだ」
ロードにフォローの言葉をかけることをせずに、2がここへ来た用件を話す。1と同様に、彼も勇者の傷心などどうでもよかった。ひとしきりすねた後、ロードは気を取り直して2の問いに答える。
「もしかして、ケレンが殺された事件?容疑者の彼、君たちの友だちだったんだ……」
驚いたように、ロードは1と2の顔を交互に見る。前回ナンナルを訪問した際、彼は3に会っていなかった。
「そういうことだ。お前ならわかるだろ?俺達が、こんなチンケな殺しをやるはずがないってことをな」
「…………」
2に詰め寄られ、ロードは息を飲む。彼は、目の前の二人が人間を遥かに超越した力を持つ、この世界では『魔王』と呼ばれる存在であることを、すでに知っている。彼らがその気になれば、ひと一人どころか、街全体を跡形もなく消滅させることもできるだろう。
「実はね、ちょっと今、厄介なことになってるんだ」
しばし考えた後、ロードは彼らに話を切り出した。何となく嫌な予感がして、1が顔をしかめる。
「それ、俺らに関係あることか?ねえなら、さっさとここを通して……」
「いや、それがあるんだよ」
ロードが、急かす1を遮る。次の彼の一言で、1の予感は確信に変わった。
「件のケレンの死体がね、消えてしまったんだ」
「今度こそ、吐いてもらうぞ!なぜケレン様を殺した!」
捜査官が、3に詰め寄る。ケレンは、教会の中でもかなり高い地位にいたらしく、捜査官も彼女を敬称で呼んでいた。
「だから、私はやっていないんですってば!」
捜査官に対し、3は同じ答えを繰り返す。いかなる尋問を受けようとも、身に覚えのないことを認めるわけにはいかないのだ。困り切ったように、捜査官は腕組みをした。
「動機がわからないことには、減刑のしようがない。このままでは、お前は神の名のもとに処刑されることになるな」
「そんなことを言われても、やってないものはやってないんだからしょうがないです」
あからさまな脅しに対し、3は毅然とした態度で応じた。それが癪に触ったのか、捜査官は机を激しく叩く。
「貴様、ちょっと顔がいいからって調子に乗るな!!」
「いや、調子になんて乗ってないですよ!?」
いちゃもんをつけられて、3は即座に言い返す。だが、彼の声は捜査官の耳には届いていないようだ。噛みつかんばかりの勢いで、捜査官は再度机に拳を叩きつけた。
「うるさい、名家の貴婦人の方々から減刑嘆願書が山のように届いておるというのに、彼女たちの好意を無にするつもりか!」
そう言うなり、捜査官は3の目の前に書類の束を乱暴に置く。そこに連なる署名に、3は心当たりがあった。メイルードで調査をしている間に仲良くなった女性たちの顔が、次々と浮かんでくる。
「ああ……ありがとう、キャシー、サンディ、ミリナ、シンシア……ええと、後は」
「何人たぶらかしとるんだ貴様は!!」
感激し、一人一人の名を呟く3に、捜査官がつっこみを入れる。そこへ、ドアが開いて門番の男が顔を出した。
「囚人に面会だ」
仏頂面のままで、そっけなく告げてくる。門番を押しのけて部屋に入ってきたのは、3にとって非常に馴染みのある二人だった。
「よー、頑張ってるかー?」
2が、冷やかすように声をかけてくる。
「カイン、シーザー!来てくれたんだね!」
孤立無援での奮闘に疲れきっていた3は、うれしさのあまり、二人の元へ駆け寄った。そのまま抱きつこうとする彼を、1と2はさりげなくかわす。そんな彼らのやり取りを見て、捜査官は渋面になった。
「部外者は、立ち入り禁止のはずだが?」
苛立ちとともに、門番を咎める。不本意であることを隠さずに、門番は弁解した。
「仕方がないだろう。こいつら、ロード様の紹介状を持っている」
「何だと……!?」
捜査官が、仰天して部外者二人をじろじろと見つめる。彼の視線をきれいに無視して、ルシファー達は話し始めた。
「とりあえず、大丈夫みてえだな。一体、何があった?」
先ほどまで捜査官が座っていた椅子に腰かけ、2は問いかける。
「聞いてよ!私は無実だって言うのに、誰も信じてくれないんだ!酷いよね!酷すぎるよね!?」
興奮した様子で3は捜査官を指さし、涙ながらに訴えた。味方が増えたことで気が大きくなったのと、今までの不安が蓄積されたのとで、とても冷静とは言えない心理状態である。
「とにかく、最初から話せ」
1が、3の両肩を叩いて落ち着かせる。一度大きく深呼吸した後、3は話し始めた。
「うん。ええと……昨日の昼ごろ、私はこの街で仲良くなった女の子に家に呼ばれて、遊びに行ったんだ」
「……ここでもナンパしてんのかよ」
2が、半眼になる。悪びれもせずに、3は肩をすくめた。
「ナンナルでは色々とやりにくいけど、ここなら都会だし、羽目を外してもいいかなーなんて」
「うん、まあ、続けろ」
2の目つきが、険悪さを帯びる。淀み始めた空気をごまかすように、1は続きを促した。
「それでね、家のドアを開けた途端、彼女……ケレンが倒れて来てね。その時には、すでに彼女は殺されていたんだ。で、どうしようかとおろおろしてたら、通報されて騎士団の皆さんに取り囲まれちゃってさ」
「それは……運が悪かったのか、それとも仕組まれたのか、どっちだろうな?」
2が、首をかしげる。彼は、3が陰謀に巻き込まれて濡れ衣を着せられたのではないかと思い始めていた。そうなると、事件を解決するのはかなり大変なことになる。
「彼女の家は教会の寮の一室で、人があちこちにいたから、何とも言えないんだけどね」
ケレンが殺された当時の状況を思い出し、3は断定を避ける。自分が濡れ衣を着せられたのは、たまたまかもしれないし、彼に恨みを持つ者の犯行かもしれない。真犯人の動機を考察する判断材料が、圧倒的に足りなかった。
「…………よし」
話を聞いて、何かを思いついたように1が頷く。ドアの方へすたすたと歩いて行く彼を、3は呼び止めた。
「どうしたの?シーザー」
「ここで考えてても時間の無駄だからな。俺様が手っ取り早くぱぱーっと、解決してやるよ」
1が、不敵に笑う。その顔は、自信に満ちていた。
「ホント!?」
「まさか、真犯人の目星がついたのか?」
3が顔を輝かせる中、2は話についていけずに困惑する。先ほどの3の証言のどこに事件解決の糸口があったのか、彼には皆目見当がつかなかった。
「そんなのどうでもいいんだよ。俺様にかかれば、一発釈放だ」
不安そうな2に対し、1は片手をひらひらと振ってみせる。そしてそのまま、1は何もできずに立ち尽くしている捜査官に話しかけた。
「おい、そこの」
「な、何でしょうか?」
唐突に声をかけられ、捜査官が姿勢を正す。うさんくさい相手だが、勇者ロードの紹介状を持っている人物を、彼もまた無碍にできる地位にはいなかった。捜査官の複雑な心境など歯牙にもかけず、1は用件を言う。
「その、殺された女が埋葬されている墓地の場所を教えろ」
「は、はあ!?」
「それとも、まだ解剖中か?とにかく、女の死体の在りかを話せ」
予想外のことを尋ねられ、捜査官は戸惑う。構わず、1は問いを重ねた。その脅し半分の剣幕に圧倒されて、捜査官は後ずさる。
「あー、なるほど、そういうことか」
1の意図を理解し、2が手を打つ。時間を操作する能力を持つ1は、死者を生き返らせることもできるのだ。被害者が生き返れば、3の無実は証明される。いや、罪自体がそもそもなかったことになる。どんな難解なトリックも、彼の前では意味を成さない。
「ケレン様は、今朝、第九墓地に埋葬されましたが……」
「よし。じゃ、行ってくるぜ」
しどろもどろになりながらも、捜査官はようやく答えた。目的の情報を得て、1は3に一言残して部屋を出て行く。2も、それに続いた。
「頼んだよ、シーザー、カイン」
二人の背中に、3は信頼を託す。やはり持つべきものは友だちだと、彼は心の底から実感していた。
第九墓地は、監獄からそう遠くない場所にあった。監獄ほどではないが、こちらも高い柵に囲まれている。盗掘防止のためだろうか、数人の騎士たちが、見回りをしていた。
「……ここか」
地図と墓地の門を見比べて、1は確信とともに呟く。落ち着きなく辺りをうろうろしていた2が、ようやく追い付いてきた。
「何か、騒々しくねえ?」
そう言うなり、柵の隙間から墓地の中を覗こうとする。彼の不審な挙動を咎め、見張りの騎士が何人か駆け寄ってきた。
「お前たち、ここで何をしている!」
剣の柄に手をかけながら、こちらにあからさまな敵意を向けてくる。何でどいつもこいつも偉そうなんだとうんざりしながら、1は答えた。
「何って、墓参りだよ」
「ここは、しばらくの間立ち入り禁止だ。後日、また来るんだな」
1の常識的な返事に、騎士は殺気を引っ込めたものの、今度は侮蔑とともに彼らを追い払うような仕草をする。そのあまりにぞんざいな態度は、1ですらも怒りを通り越して呆れるような代物だった。
「そういうわけにもいかねえんだっつの。ほれ」
真面目に相手をするのもばからしいと、1はロードの紹介状を騎士たちに見せる。
「俺ら、こいつの知り合いなんだけど?」
紹介状を見て硬直する騎士たちに、だめ押しをするように1は告げた。その途端、先ほどの門番や捜査官と同様、騎士たちは魔法にでもかかったかのように威勢の良さが消し飛んだ。
「……少々お待ちください」
そう言い残し、騎士たちはばたばたと駆け去って行く。その変わり身の早さを鼻先で笑い飛ばし、1と2は彼らの背中を見送った。元の世界では、悪魔たちを束ねる地獄の王として権力を振りかざす立場にいる二人だが、こうやって他人の権力をかさに立ち回るのも新鮮で面白いと思い始めていた。自分の世界の悪魔たちには、ちょっと見せられない姿である。
しばし後、騎士は一人の人物を連れて戻ってきた。
「君たち、こんなところでどうしたの?」
「ロード!」
2が、彼の名を呼ぶ。白い軍服に身を包んだ、爽やかな雰囲気の青年……彼こそが、勇者ロードだった。
「あー……お前自身には用はねえ。俺様に必要なのは、お前の権力だけだ」
「ちょっとそれ、あんまりじゃないか!?」
本人を前にして、1はぶっきらぼうに言い放つ。酷い仕打ちに、勇者は悲しそうな顔をした。
「女が殺されたって事件、お前も知ってるだろ?俺らのダチが、無実の罪で拘束されてんだ」
ロードにフォローの言葉をかけることをせずに、2がここへ来た用件を話す。1と同様に、彼も勇者の傷心などどうでもよかった。ひとしきりすねた後、ロードは気を取り直して2の問いに答える。
「もしかして、ケレンが殺された事件?容疑者の彼、君たちの友だちだったんだ……」
驚いたように、ロードは1と2の顔を交互に見る。前回ナンナルを訪問した際、彼は3に会っていなかった。
「そういうことだ。お前ならわかるだろ?俺達が、こんなチンケな殺しをやるはずがないってことをな」
「…………」
2に詰め寄られ、ロードは息を飲む。彼は、目の前の二人が人間を遥かに超越した力を持つ、この世界では『魔王』と呼ばれる存在であることを、すでに知っている。彼らがその気になれば、ひと一人どころか、街全体を跡形もなく消滅させることもできるだろう。
「実はね、ちょっと今、厄介なことになってるんだ」
しばし考えた後、ロードは彼らに話を切り出した。何となく嫌な予感がして、1が顔をしかめる。
「それ、俺らに関係あることか?ねえなら、さっさとここを通して……」
「いや、それがあるんだよ」
ロードが、急かす1を遮る。次の彼の一言で、1の予感は確信に変わった。
「件のケレンの死体がね、消えてしまったんだ」
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- テーマ:自作小説(ファンタジー)
- ジャンル:小説・文学
- カテゴリ:L-Triangle!9
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